西渓公園は、佐賀県多久市多久町に位置する都市公園(近隣公園)です。明治時代の炭鉱開発を手掛けた実業家、高取伊好によって寄贈されました。この公園には、山水庭園、高取の立像、3つの市立資料館などがあり、和風公会堂である「寒鶯亭」は国の登録有形文化財として認定されています。
西渓公園は、その名が示すように、高取伊好の号「西渓」から名づけられました。彼は青年時代に多久領の邑校「東原庠舎」で学んだことから、多久市との縁を深め、その後、自身の財を投じて公園や図書館、公会堂を建設し、それらを多久市に寄贈しました。公園は、四季折々の自然美を楽しめる山水庭園を特徴としており、春には約400本の桜が咲き誇ります。
西渓公園は、南方にそびえる城山(しろやま)を背景にした山水庭園が特徴です。庭園は春には桜が咲き乱れ、初夏にはツツジが彩り、秋には紅葉が美しく、冬には梅の花が咲き誇ります。訪れる季節ごとに異なる風景を楽しむことができるため、地元の人々や観光客にとって、癒しの場として親しまれています。
庭園内には「水琴窟」という特別な仕掛けがあります。これは水の滴が地下の洞窟で反響し、まるで琴の音のように美しい音色を奏でる装置です。庭園を訪れる際には、この静かな音に耳を傾けてみるのもおすすめです。
寒鶯亭(かんおうてい)は、高取伊好が村の公会堂として建設し、1922年(大正11年)に公園とともに多久村に寄贈された建物です。この建物は、木造の和風公会堂として建てられ、杵島炭鉱で技師を務めた大坪彌平によって設計されました。現在は、国の登録有形文化財としてその文化的価値が認められています。
寒鶯亭の名称は、高取が書き残した「寒鶯待春」に由来します。これは「冬の鶯が春を待ちわびながら鳴く様子」を指し、高取はこの公会堂で学ぶ人々が、やがて春のような成長を遂げることを願って、この名をつけました。この意味には、「学び続けることで、やがて大きな成果を得られる」という高取の熱い思いが込められています。
西渓公園内には、3つの資料館があります。それぞれ、多久市の歴史や文化、そして近代の発展に貢献した人々の業績を紹介しています。
多久市郷土資料館では、郷土の歴史や文化についての展示が行われています。特に、近世箏曲の源流である「筑紫箏」の始祖である諸田賢順に関する資料が充実しています。また、多久聖廟に関する貴重な資料も展示されています。
先覚者資料館では、佐賀県や日本全体の近代化に貢献した偉人たちの資料が展示されています。ここでは、高取伊好や電気工学者の志田林三郎、法制官僚である鶴田皓の業績に焦点が当てられ、彼らの功績を知ることができます。
歴史民俗資料館には、この地域に伝わる民具や農具が展示されています。また、肥前地域での炭鉱業に関する資料も展示されており、地元の産業の発展について学ぶことができます。さらに、郷土資料館の書庫として使われている煉瓦造りの倉庫は、大正時代に建てられたもので、多久村の図書館書庫としての役割を果たしていました。
公園の中央には、1920年(大正9年)に高取伊好の立像が建立されました。この銅像は、村民や有志によって寄付され、建立されたものです。しかし、太平洋戦争中に供出され、一時的に胸像のみとなりました。その後、地元有志による復元委員会が結成され、2011年(平成23年)に再び立像として復元されました。
西渓公園では、季節ごとに様々なイベントが開催されます。特に、「孔子の里桜まつり」や「孔子の里紅葉まつり」は、地元の人々や観光客に人気のイベントです。これらのイベントは、公園内の広場や寒鶯亭を会場に行われ、美しい自然と歴史的な建造物を楽しみながら参加できます。
西渓公園へのアクセス方法も充実しています。JR多久駅からは祐徳バスを利用し、「本多久」バス停から徒歩約5分で到着できます。また、ふれあいバスを利用することも可能で、「西渓公園入口」バス停で下車するとすぐ公園にアクセスできます。車での来園も便利で、長崎自動車道多久ICから約14分で到着します。公園の北側には無料の駐車場(80台収容)があり、駐車場の心配もいりません。
西渓公園は、四季折々の美しい自然に包まれ、歴史的な建造物や資料館が点在する魅力的な公園です。地元の人々にとっても、観光客にとっても、ゆったりと過ごす場所として最適です。庭園を散策しながら、歴史を感じ、資料館で学び、公会堂「寒鶯亭」で特別な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。