熊の川温泉は、佐賀県佐賀市富士町に位置する歴史ある温泉地です。この温泉は、自然豊かな嘉瀬川沿いに広がる温泉街として知られ、古くから湯治場として多くの人々に親しまれてきました。
熊の川温泉は、泉質や効果効能の高さで広く知られています。泉質は放射能泉で、九州地方ではラドン(ラジウム)含有量が最も多い温泉の一つです。そのため、入浴すると肌がつるつるになる効果があり、様々な疾患にも良いとされています。
熊の川温泉には、32.9℃と38.7℃の2本の源泉が存在し、それぞれ毎分60リットルと183リットルの湧出量を誇ります。これにより、温泉街に点在する旅館や公共浴場に豊富な温泉が供給されています。
嘉瀬川に沿って温泉街が広がり、7軒の旅館が営業しています。また、地域住民や観光客が利用できる共同浴場も2軒存在し、温泉情緒を存分に楽しむことができます。共同浴場としては、元旅館である「熊ノ川浴場」と、市営浴場の「鵆の湯」があり、どちらも気軽に温泉を楽しむことができます。
熊の川温泉の開湯は821年に遡ります。伝説によれば、弘法大師(空海)が水鳥の動きを見て、この温泉を発見したと伝えられています。また、江戸時代には佐賀藩主鍋島勝茂が湯治に訪れた記録も残っており、その歴史の深さが伺えます。
熊の川温泉は、歴史上の著名人も訪れたことで知られています。例えば、中国の文学者であり政治家でもある郭沫若は、大正13年(1924年)に家族とともにこの地を訪れ、温泉に滞在した記録が残っています。彼はこの地の静かな環境と温泉の効能を称賛していました。
1966年(昭和41年)7月、熊の川温泉は隣接する古湯温泉と共に国民保養温泉地に指定されました。しかし、2019年(令和元年)5月に環境大臣により、その指定が解除されました。これは温泉地としての利用者数の減少や経営状況の変化などが影響したと考えられています。
熊の川温泉へのアクセスは、長崎本線(JR九州)の佐賀駅から昭和バス「富士支所前」行きのバスに乗車し、「熊の川温泉前」で下車するのが一般的です。佐賀駅からの所要時間は約40分で、自然豊かな景色を楽しみながら温泉にたどり着けます。
熊の川温泉の伝説は、大同元年(806年)に弘法大師が唐から帰国した際に始まります。彼がこの地を訪れた際、足を怪我した鳥が温泉で足を癒している様子を目撃し、温泉を発見したとされています。この伝説は温泉地の歴史を彩る重要な要素として語り継がれています。
温泉は一度洪水で水没しましたが、延宝時代(1673〜1680年)に地元の大庄屋である山口金左衛門によって再興されました。この時代から皮膚病や毒除けに効果があるとされ、多くの人々に利用されるようになりました。熊の川温泉は、当時から既に広く知られた湯治場であり、初代佐賀藩主鍋島勝茂もその効能を信じ、利用していたとされています。
明治12年(1879年)には、熊の川温泉は村有となり、翌年には大規模な改築工事が行われました。地域住民が力を合わせて温泉施設の整備を行い、その後も温泉は発展を続けました。明治13年には、歌舞伎の公演が30日間にわたって行われるなど、地域の文化活動にも寄与しました。
昭和24年(1949年)の大水害までは、熊の川温泉の河川敷には露天風呂が存在し、地元住民の洗濯場としても利用されていました。平成4年には第二の泉源が発掘され、「鵆熊泉(ちどりくません)」と名付けられ、現在も旅館で利用されています。
平成10年には、新たな公共浴場「鵆の湯」がオープンし、地域の賑わいが再び戻りました。熊の川温泉は、現在もラドン含有量の高い放射能泉として、多くの人々に利用されています。
熊の川温泉は、歴史と自然が調和した温泉地として、訪れる人々に癒しと健康を提供してきました。その歴史の深さや温泉の効能、そして地域住民との繋がりが今も息づいており、佐賀市の貴重な観光資源として多くの人々に愛されています。