黒髪山は、佐賀県武雄市と西松浦郡有田町の境に位置する標高516mの山です。この山は、「新日本百名山」および「九州百名山」に選ばれており、古くからの山岳信仰や修験道場としても知られています。
黒髪山は、伊万里市、武雄市、西松浦郡有田町の市町境にまたがる黒髪山地の主峰とされています。山頂部は旧山内町、旧有田町、旧西有田町の3町の境界にあたります。地元では「くろかみやま」と呼ばれることが多いですが、文献によっては「くろかみざん」、「くろかみさん」という表記も見られます。
黒髪山の山頂部は、南西側に膨らんだ半円状の稜線を持ち、北東側は窪んでいます。山頂には天童岩があり、青螺山の南麓との間には、雄岩や雌岩といった奇岩がそびえ立ち、その風景は「肥前耶馬渓」とも称されます。これらの奇岩は、有田流紋岩類からなる岩峰地形です。
黒髪山の登山道は天童岩を経由するルートがあり、このルートには難所も含まれます。鎖場や梯子、ロープを使って進む箇所があるため、初心者にはやや難易度が高いかもしれません。しかし、頂上からの眺望は素晴らしく、達成感もひとしおです。
黒髪山は古くから山岳信仰の対象とされ、鎌倉時代には「黒髪権現」として修験道場となっていました。現在も黒髪神社が存在し、大智院の奥の院もその一部として残っています。さらに、黒髪山には鎮西八郎為朝（源為朝）にまつわる伝説も数多く残されています。
黒髪神社は、山内町宮野に下宮があり、黒髪山頂の洞穴には上宮が鎮座しています。崇神天皇16年（紀元前88年）に三所権現の名を賜り、神が祀られたのがこの神社の創始とされています。下宮には阿弥陀堂や観音堂、薬師堂といった仏堂が並び、古来からの信仰が今も息づいています。
黒髪山は、肥前における修験回峰二十八か所に数えられる修験道場のひとつでもあり、現在も寺坊や堂宇の名前にその痕跡が残されています。例えば、乳待坊や勝学坊、里坊といった地名は、かつてこの山に修行場があったことを示しています。
黒髪山はその美しい自然と歴史的な価値から、1983年（昭和58年）には「21世紀に残したい日本の自然百選」に選ばれました。また、黒髪山系から湧き出る竜門の清水は、1985年（昭和60年）に「名水百選」にも選ばれており、多くの観光客が訪れる名所となっています。
黒髪山にはいくつかの展望スポットがあり、山頂からは素晴らしい景色を楽しむことができます。特に、北東に位置する乳待坊公園や、山頂と雄岩の間の稜線、さらに南東にある風早などは、絶好のビューポイントです。これらの場所からは、黒髪山地全体を見渡すことができ、四季折々の風景を堪能できます。
黒髪山やその周辺には、鎮西八郎為朝に関する数々の伝説が伝わっています。例えば、為朝が大蛇を退治したという話や、その際に黒髪神社で冥助を祈ったとされる逸話などが有名です。また、毎年10月29日に行われる黒髪神社の秋の例大祭では、伝統的な流鏑馬（やぶさめ）が奉納され、その勇壮な姿を間近で見ることができます。
黒髪山地は有田流紋岩類を基盤とした地質構造を持ち、約270万年から240万年前に火山活動によって形成されました。この地域では、火山砕屑岩や流紋岩が侵食によって地形に特徴的な段差を生み出しており、標高200〜250メートルの台地や岩峰が見られます。特に、黒髪山の山頂部には角閃石流紋岩の円頂丘や岩脈が点在しており、壮大な岩峰群が特徴です。
黒髪山地の形成において、火山活動や熱水変質が大きな役割を果たしました。有田の泉山付近では陶石鉱床が発見されており、約220万年前の熱水変質により粘土鉱物が生成されました。黒髪山でも同様に、約200万年前から180万年前にかけて熱水変質が進行し、現在のような地質が形成されました。特に、山頂部の窪地では、岩石の陶石化作用が強く、旧火口であったと考えられています。
黒髪山はその自然美と歴史的背景、そして修験道や山岳信仰の遺産を今に伝える貴重な場所です。登山道はやや険しいものの、頂上にたどり着いた際の達成感と、美しい風景が訪れる人々を魅了しています。また、黒髪神社や大智院を巡る歴史探訪も楽しむことができ、自然と文化が融合した観光名所として非常に魅力的です。
黒髪山は四季を通じて様々な表情を見せます。春には山桜が咲き誇り、夏には深緑が山全体を覆います。秋には紅葉が美しく、冬には雪景色が訪れる人々を魅了します。これらの自然美は、黒髪山を訪れる観光客に四季折々の感動を提供してくれるでしょう。
黒髪山へのアクセスは、武雄市や有田町から車や公共交通機関で比較的容易に行くことができます。山内町側からは、登山道入り口までのアクセスも整備されており、初心者でも登山を楽しむことができます。