鏡神社は、佐賀県唐津市の鏡山の麓に位置する歴史的な神社です。古来より松浦国の総社として尊崇され、現在も地元の人々に親しまれています。
鏡神社は、現在「松浦総鎮守 鏡神社」と呼ばれ知られていますが、かつては「鏡尊廟宮」「鏡宮」「松浦宮」「板櫃社」「久里大明神」など様々な名称で呼ばれてきました。古くから松浦国の総社として、松浦地方の鎮守神としての役割を担い、地元の人々から深い信仰を集めてきました。
鏡神社は、かつての神道と仏教が融合した神仏習合の名残を今も残している特異な神社です。境内では楊柳観音菩薩や立神様を始めとする仏教の神々も、神道の形式で祭られており、地域の信仰に根付いています。
鏡神社の本殿は2棟あり、それぞれに異なる神々が祀られています。一ノ宮には「息長足姫命(神功皇后)」が祀られており、二ノ宮には「藤原広嗣」が祀られています。この神社は『源氏物語』の「玉鬘の巻」にも登場しており、松浦地方との深い歴史的つながりが見られます。
鏡神社の一ノ宮に祀られている息長足姫命、通称神功皇后は、古代において武勇に優れ、宝の国・新羅への出兵を成功させた女帝として、日本神話における英雄的な存在として知られています。三韓征伐の際、鏡神社の由来となる鏡山で戦勝祈願を行いました。その際に見られた霊光から、皇后はこの地を「我が軍を守ってくれた場所」として大切にし、鏡を山頂に納め、今後もこの地を守ることを約束しました。この鏡は神功皇后の霊を宿していると伝えられ、それ以来、地域の守護神として崇拝されています。
二ノ宮には藤原広嗣が祀られています。広嗣は奈良時代に活躍した貴族で、藤原広嗣の乱を引き起こした人物で、歴史的に正義を貫いた人物として知られています。彼は不正を正すために挙兵しましたが、最終的に謀反の汚名を着せられ、この地で処刑されました。しかし、彼の霊は怨霊として都に災いをもたらし、その後、朝廷は彼の霊を慰めるためにが、広嗣を祀る神社が建立されました。現在では、文武両道や心願成就の神として崇められています。
境内には、特に人気のある御神木が立っています。この木は、まるで臨月を迎えた女性の姿をしており、子宝や安産、夫婦円満の御利益があるとされています。この御神木は、神功皇后が出兵中に身ごもっていた伝説に基づき、その象徴的な存在として人々に愛されています。
参道を進み、二の鳥居をくぐると、両脇に「龍神手水舎」が設置されています。左手には雄龍、右手には雌龍がそれぞれ祀られており、その口からは御聖水が流れ出ています。この水は、参拝者にとって神聖なものとされており、健康や運勢を願うための手水として利用されています。
境内には、源氏物語にゆかりのある歌碑も設置されています。この神社が古くから文化や歴史と密接な関わりを持っていることを象徴する遺産の一つです。
立神祠に祀られている立神様は、心身の痛みや病を癒す神として古くから信仰されています。昭和4年に現在の場所に移設され、昭和61年に祠が再建されました。病気平癒を願う参拝者が訪れ、形代を奉納する習わしが続いています。
鏡神社の歴史は非常に古く、神功皇后の三韓征伐にまで遡ります。社伝によれば、神功皇后が鏡山で戦勝祈願を行い、その後、鏡が霊光を発したことから、この神社が建立されたとされています。また、神功皇后が当地で陣痛に苦しんだ際、里人が差し出した湧き水で痛みが和らぎ、無事に応神天皇を出産したという伝説もあります。このため、鏡神社は安産のご利益がある神社としても知られています。
また、藤原広嗣が当地で処刑された後、彼を祀る二ノ宮が創建されました。広嗣の処刑後、彼の怨霊が災いを引き起こしたとされ、それを鎮めるために広嗣を祀る神社が建立されました。この出来事は、鏡神社の歴史において重要な役割を果たしています。
鏡神社には、国指定の重要文化財である「絹本着色楊柳観音像」が保管されています。この絵は、高麗時代に描かれたもので、縦419cm、幅254cmに及ぶ巨大な仏画です。1310年に高麗王の忠烈王妃が衆生救済を祈願して宮中の画家に描かせたものとされています。この像は、かつては大祭の際にのみ開帳されていましたが、廃仏毀釈により一時忘れ去られていました。昭和43年、伊能忠敬の「測量日記」などの史料に基づいて再発見され、その歴史的価値が改めて認識されました。
鏡神社では年間を通じてさまざまな祭事が行われています。これらの行事は、地域の人々にとって重要な文化的・宗教的なイベントであり、神社の長い歴史を反映しています。
「鏡くんち」と呼ばれる秋季例大祭は、10月9日に行われますが、近年では第3土曜日に開催されることもあります。この祭りでは、2台の曳き山笠が街を練り歩き、地元の人々や観光客を楽しませます。土日を通じて行われるこの祭りは、地域の伝統行事として大いに盛り上がります。
その他にも、以下のような行事が年間を通じて執り行われます:
鏡神社の境内には、200本を超える梅の木が植えられた梅苑や、桜に囲まれた美しい景観が広がっています。特に春には、満開の桜が境内を彩り、訪れる人々に安らぎを提供しています。また、梅や桜の花が咲き誇る季節には、多くの参拝者や観光客が訪れ、その美しさを楽しむことができます。
「宮ノ原」と呼ばれる広場は、鏡神社の境内の一部として、地域の人々に親しまれている憩いの場です。四季折々の花々が咲き誇り、参拝者や観光客にとってリラックスできる場所となっています。
鏡神社は唐津市の中心部から近く、観光にも便利な立地にあります。JR唐津駅からは徒歩でのアクセスが可能で、唐津市内を散策しながら訪れることができます。また、周辺には鏡山や唐津神社などの観光名所も点在しており、一日を通して歴史と自然を楽しむことができます。
鏡神社は、佐賀県唐津市の歴史と文化に深く根付いた神社であり、武運長久や子宝、安産、文武両道などの御利益を求めて多くの人々が参拝に訪れます。また、その文化財や自然の美しさからも、多くの人々に親しまれており、年間を通して様々なイベントや祭事が行われています。歴史と自然が融合したこの神社は、唐津市の象徴とも言える存在です。